クランクイン

2022年2月1日にクランクインした本作。初日からW主演の道枝駿佑と福本莉子が顔を合わせ、神谷透と日野真織の愛おしい時間が日々切り取られていったが、その中で道枝が「なんだか今日が初日みたいな気分です」と語ったのが撮影5日目の2月6日。この日、千葉県にある高校を借りて撮影されたのは、真織が透のクラスを訪ねて、交際の条件を話すシーン。ふたりの始まりとなる場面だけに、まさに透と真織の初日。それに加えて、実はここまでの間に撮影されてきたのは、デート風景の点描シーン。脚本には状況の説明があるのみで、掛け合いはすべてアドリブ。セリフのある芝居場を演じるのは本日が最初で、そうした意味でも道枝と福本の初日となった。

それぞれに緊張を滲ませながらも、これまで撮影を重ねて来ていて、これ以前にも共演しているだけにやりとりはスムーズ。互いの芝居を受けながら、三木孝浩監督のもと、透と真織の関係性と空気感が形作られていた。またこの日のロケ終了後、映画化発表の際に公開された、自撮りで真織が透とカメラに収まるビジュアルも撮影。ちなみにこちらはデイのビジュアルで、続いて発表されたポスターはサンセット、その後のチラシはナイトのビジュアルとなっていて、記憶が失われていくまでのふたりを表現。眠りにつくと記憶を失ってしまう真織、そして忘れられてしまう透にとって大切なものである時間の移り変わりを、各ビジュアルで描き出している。

ティザーのイメージは初々しくピュアということで、それを伝える男性スタッフがなにわ男子『初心LOVE(うぶらぶ)』の振りを披露すると、道枝当人も福本も無邪気に大笑い。他パターンも撮影された中、細かな指示はなくてもさっと役柄としての動きと表情を見せていて、すでにしてもう道枝は透で福本は真織。ふたりだからこその“セカコイ”の始まりも感じさせた。

ロケーション

本作の舞台で、主なロケ地となったのは神奈川県の湘南地域。湘南海岸公園や辻堂海岸公園、湘南モノレールなどデートやレジャースポットでも人気の場所が透と真織の日常風景の中、印象的に映し出されている。三木孝浩監督は『陽だまりの彼女』(13年)や『ホットロード』(14年)でも同地域で撮影をしていて、「海の表情が良くて、ほしい光を映画の神様が与えてくれるんですよね」とコメント。クランクインもまさに湘南・横浜からで、八景島シーパラダイスで遊ぶ姿の他、鵠沼伏見稲荷神社でもロケが行われ、透がおみくじを引く場面も撮影。脚本では大吉が出る設定だったが、リアルな反応がほしいという演出のもと、道枝が仕込みなしで引いてみることに。その結果は、なんと実際にも大吉! 映画の神様だけでなく、湘南の神様も本作に味方してくれたに違いない。

ディレクション

自分にスマホのカメラを向ける日野真織=福本莉子に対して、白い木馬に跨りながら「楽しいけど、そんなにまじまじと見ないでよ」と照れ笑いを見せる神谷透=道枝駿佑。こちらは、メリーゴーラウンドの場面のひとコマ。これもまたアドリブの掛け合いだったが、本作では記録に残すべく撮影するという、相手を見つめる行為がクローズアップされている。そのときに分かる相手の素顔、そのときに知る日常の美しさ。そこで感じる感情の機微こそがまさに恋愛そのもの。「恋愛において、相手に対して近視眼的になってしまう感じを映像の中でどう表現できるかというのは、ラブストーリーで重点を置いているところではあるんです」と三木孝浩監督。本作ではそれは尚更だ。

演出でも監督が重視していたのも、目線や目力。例えば、交際の条件を話すシーンでは、福本にできるだけ瞬きしないよう、また透が家族について語るシーンでは、視線を外さずに真織を見ながら話すよう演出している。また特徴的なのが、カメラを真織の目線として透を眺め、レンズを透の視野として真織を捉えた視点ショット。デートでつい寝てしまった真織が、眠りから覚めて透の存在に気づくショットは特に印象的だ。さ迷う視線=カメラが透にたどり着き、「目覚めた?」と微笑む道枝に、モニターを見ていたスタッフから「キラーショット!」の声が上がったほど。恋しているときに見えるもの。本作の道枝と福本の姿にこそ、恋すること間違いなしだ。

キャスト

 神谷透と日野真織を支える、周囲の人々。その存在がふたりの恋愛だけでなく、切なくも優しい“セカコイ”の世界観を後押しする。真織の親友・綿矢泉には、古川琴音。実際、撮影合間も真織を演じる福本莉子とはずっと一緒に居て、仲が良かったふたり。「お芝居で不安なときに励ましてもらいました」と福本もコメントしている。また、道枝駿佑も交えて談笑する姿もあったが、食べ物の話をよくしていたそう。そして透の姉・神谷早苗には、松本穂香。姉弟で語り合うシーンは心温まる場面となっているが、役を離れたところでもそれこそ姉と弟のように話していたふたり。「“なにわ男子では何担当なの?”とか、いろいろ話を聞いてくれました」と道枝。物語の展開をめぐって、重要な役割を担うことになる泉と早苗。ふたり合わせて、実力派の共演陣にも注目だ。

クランクアップ

撮影期間の約1カ月間、神谷透と日野真織としてそれぞれの時間を生きた、道枝駿佑と福本莉子。まず、すべての出番を終えたのは道枝で、3月5日、池袋サンシャインシティ水族館のお土産ショップでの撮影でアップを迎えた。「充実した毎日で、たくさんのことを学ばせていただきました」と道枝。その3日後の3月8日、本編自体の撮影もゴールを切って、福本はこの日の都下の施設を借りてのロケで撮了。「今できる自分の全部を出し切りました」と笑顔を見せた。日々、三木孝浩監督と対話を重ねながら、原作を肌身離さず持ち歩いて透と真織に向き合ったふたり。福本は現場で忘れたくないものを収めた〈真織カメラ〉も担当したが、その撮影姿もまた真織に重なった。

そして最後にインタビュー映像の収録となったが、福本が道枝について話していたところ、背後からその道枝本人が登場! 福本のアップをお祝いすべく、サプライズで現場に駆け付けたのだった。驚きながらも「まんまと引っかかりました」と喜ぶ福本に、「大成功で良かったです!」と道枝。このサプライズのために、他のキャストやスタッフにも見つからないように車の中で数時間待機していた道枝。そのサービス精神は、まさに透だった。また道枝から福本にドライフラワーの花束が贈られたが、それは思い出がずっと残るという意味を込めたもので、それぞれの花も花言葉や福本の好きな色にこだわって道枝がセレクト。受け取った福本の感激もひとしおだった。

実はまさに3日前、小物の話題に引っかけて福本の好きな色を聞き出していた道枝。一方で福本は「なんで急に」と疑問に思っていたそうで、道枝は「いい流れで聞けたかなと思ったんですけど、僕の勘違いでした(笑)」。永遠に残るものとなった撮影現場の思い出。そうやって完成した本作もまた、ふたりの胸にも観客の心にも永遠に残るものとなるはずだ。