月川
確か岸田さんに原作を送っていただいて、監督と脚本ということでお話をいただいたのが最初でしたよね。読ませていただいたら、登場人物たちが魅力的で、彼らに起きる出来事を思うと切なくて、でもあたたかくて胸を打たれて。すぐに物語にのめり込んで、最初の打ち合わせ前に第1稿のプロットを出していたくらいです。
岸田
一条岬さんの原作はKADOKAWAさんの電撃小説大賞の第26回(19年)受賞作ですが、第23回(16年)受賞作の『君は月夜に光り輝く』(佐野徹夜)も月川さんと一緒に映画化(19年)させていただいていて、その賞には注目していたんです。原作と出会って、『君は月夜に光り輝く』の時にも月川さんには脚本を書いていただいていたので、まずはぜひプロットからということでお願いしたのが最初でした。とにかくまずは本を作ろうと走り出した後にコロナ情勢も相まって月川さんのスケジュール問題が出てきてしまって…。実はプロット開発時期がちょうど2020年3月の第1回目の緊急事態宣言の頃だったからです。映画業界でもあらゆる企画や現場が止まってしまっていて。一方でコロナが進めば進むほど本来あるはずだった様々な行事やイベント、学校生活や仕事などが失われていく社会情勢と好きな人に1日で忘れられてしまうセカコイの物語がリンクしました。先行きが不透明な時代だからこそ、この作品は創作すべきだとなっていたんですよね。何とか映像化を実現したいという想いで三木さんに相談させていただいたんです。
三木
お話をいただいて、月川くんの脚本というのもあって興味を引かれて読ませてもらったら、これがすごく良かったんですよね。もともと僕自身、記憶の物語がすごく好きなんです。映画というもの自体、ライブじゃない記憶するメディアだというのも大きいと思いますが、観てきた作品や、作りたいと思う作品も記憶にまつわるものが多くて。その中で今回、主人公の透というキャラクターは過去の記憶に囚われて前に進めずにいて、逆にヒロインの真織は人生の基盤の糧になる記憶を積み重ねられずにいる。どちらも記憶が背景にありながらも対称的で、そんなふたりが恋をするっていうところが面白いなと思いました。
月川
脚本を進めながらももうすでに決まっている別の仕事があって、やれるかどうか分からないところもあったので、それも考えながら書いてはいたんです。ただ、三木さんにお話が行く前に、アドバイスが欲しくて、一度脚本を読んでいただいていて、意見をもらったりもしていたんです。そのときにも三木さんは記憶の物語が好きだと言われていたので、ぜひ撮っていただけたら嬉しいなって密かに思ってました(笑)。
三木
僕が入って、月川くんはもう「とりあえずここまでやったので、あとはお任せします!」みたいな感じでしたよね?(笑) 脚本に関しては松本花奈さんにも加わっていただきましたが、撮影前にあらためて月川くんに読んでもらって意見も聞いたんですよ。そのアイデアを取り入れて、後半の構成の部分は組み替えたりもしましたね。月川くんと僕って作品に対する向き合い方が似ているところがあるかなと思っていて、自分の作家性を押し出すというよりは、企画や原作をいただいたときになるべく多くのお客さんに広く楽しんでいただくために、どう映画的により良くしていくかというところに一番軸足があると思っているんです。そういう意味では今回の脚本もそういう作りになっていたので、非常にやりやすかったです。毎回、ラブストーリーを手掛けるときは、描かれる恋愛が観ている方にとって尊いもの、登場人物を応援したくなるようなものになればいいなと思いながら作っていますが、脚本はそのベースとなるもの。役者さんたちが演じるキャラクターを好きになってもらうというところにたどり着くための脚本になっている感じはすごくありましたね。
岸田
とにかく未来のために何か作ろうと走っていたのでスケジュールやキャストも決まっていない中で脚本だけが完成していきました。キャスティングも悩みに悩んで、プロデューサー陣の間でポンッと名前が出てきたのが、道枝駿佑さんだったんです。彼だったら、透という役ができるんじゃないか、と。そこから作品として光明が見え始めた感じでした。
三木
お名前をお聞きした時点ではまだお芝居も拝見していなかったので、未知数でしたが、お会いしてみたらすごく柔らかい空気感だったんですよね。透に通じる他者を思いやる優しさみたいなものが道枝くんご本人にも備わっていて合うなと思いました。基本的に役者さん自身の良さが滲み出ればいいなと思っていたので、まさにそのものでしたね。
岸田
真織も脚本段階ではまったく決めていなかったんですが、新たなヒロインとしての映画スターを登場させることが大事だなと思っていた中で、福本莉子さんだなと。三木監督とご一緒させていただいた『思い、思われ、ふり、ふられ』(20年)では4人主演のひとりでしたが、今回は1日で記憶を失うという難しい役で勝負してほしいと提案しました。
三木
『思い、思われ、ふり、ふられ』とはまた違うヒロイン像でしたが、あの作品で演じてもらった由奈も一番弱そうに見えて実は芯は強くて、莉子ちゃん自身も根はしっかりしているので、彼女のキャラクターが生きるんじゃないかなと思いました。今回またこの作品で、さらにもうワンステップ一緒に上がっていけたらいいなという気持ちでした。
月川
道枝さんも福本さんも非常に素晴らしかったです。まさに透と真織で、三木さんが撮られた映像もイメージどおりで。今回、画面のトーンはどういう風にしようと考えられていたんですか? 暖色系のあたたかい色味で来るかなと思ったんですが、割と寒色系のクールなトーンだったので、テーマカラーでなど何か狙いがあったのかなと思って。
三木
そこは割と(撮影監督の)柳田(裕男)さんのテイストですね。でも、透も真織も背負っているものがあるキャラクターだったので、全体を通して明るくハッピーなトーンというよりは、どこかでそこはかとなく重さを感じさせたいというのはありましたね。
月川
三木さんはいつも作品にはキーショットを作るべきだということをおっしゃっていて、今回はおそらく花火大会のシーンがキーショットの派手な画面になるのかなとなんとなく予測していたんです。でも割と映る範囲を限定して、ふたりだけの空間を作ることに注力していた気がして。そこに関しては、なるほど、こう来たかという感じでした。
三木
ある種、コロナ禍の撮影的な制限を逆利用した部分でもあるんですけどね。スケールのある画が難しいなら、ふたりに集中して、お客さんにその一挙手一投足のディティールを見てもらうっていう方向にシフトしたほうがいいんじゃないかなと思って。もともと恋愛において、相手に対して近視眼的になってしまう感じを映像の中でどう表現できるかというのは、ラブストーリーで重点を置いているところではあるんです。花火大会含めて、普通だったら客観的に捉えるところを、主観のPOV(Point Of Viewショット=視点ショット)で相手を捉えるということは意識しました。
月川
僕は理屈っぽい人間なので、三木さんの作品にある感覚的なものに対する憧れがすごくあるんですよ。三木さんは擬音の人というか、ふわーっと、とか、ぶわーっと、とか言われるんですが(笑)、それがそのまま映像になっている感覚なんです。本当は理屈よりも感情のほうが大事だと思うので、僕も三木さんのような感覚的なものを目指すんですが、その感覚的なものをつい分析してしまう。例えば三木さんの光の使い方を見習っているんですが、それも自分なりのロジックに落とし込んでいて、そのうえで感覚的に受け取ってもらうにはどうしたらいいんだろうって結局また理屈で考えているんですよね(笑)。
三木
僕はどっちかって言うと、割とぼんやりあいまいにしておくタイプですから(笑)。さっき月川くんとはアプローチが似てるって言いましたが、月川くんはベースが理系で、分析力があって、いろんなものを数値化して脚本作りやクリエイティブを進めていく感じがあるんですよね。そこがすごいなって思います。
月川
自分が書いたものを他の方に撮っていただくのは初めてだったんですが、今、話していて、自分が理屈で突き詰めて組み立てたものを最後、感覚で作ってもらうって、今回の企画は最高の形だったなって思いましたね。
三木
これがラブストーリーだったからこそこういうやり方ができて、すごくいい形になったというのはあるかもしれないですね。結局、人を好きになるって、理屈じゃない部分があるじゃないですか。ちょっとあいまいなもので、あいまいなんだれけどすごく琴線に触れるもの。そこをいかに拾っていくかというのは、特にラブストーリーを作るうえでは自分自身大事にしていて、今回もそういうものが詰まった作品になっている気がしますね。
岸田
おふたりのおかげで、最高の形になったと思います。僕がラブストーリーを作るときに毎回思っているのは、恋愛ほど小さな出来事で且つ大きな問題はないってことなんですね。それがどれだけ当人にとって価値があるものとして、観ている人に魅力的に描けるか。そういう意味ではテーマ性は毎回重視していて、『君は月夜に光り輝く』では命の価値は長さではなく質、『思い、思われ、ふり、ふられ』では行動に起こさなければ得るものはないっていうことが僕の中でのテーマだったんです。今回は、一度、人を愛してしまった感情は失われることはないということが描かれていて、そこにこの作品を届ける意味があると思いました。どの時代にもラブストーリーはありますが、かつて恋愛映画と言えば“セカチュー”(『世界の中心で、愛を叫ぶ』04年)だった人たちがいるように、私の世代は“セカコイ”ですって言っていただけるような大切な一作になれば嬉しいです。