三木
この作品で僕が面白いなと思ったのは、透と真織はそれぞれ記憶にまつわる業みたいなものを背負っているわけですが、それが対比になっている点だったんです。真織は日々の記憶が積み重ねられなくて、透は過去の記憶に縛られて動けない。そんなふたりが出会って、お互いにとって必要な存在になっていく過程が良いなと思いました。毎回、役者さんにはキャラクターに関する覚え書きをお手紙にして最初に渡しているんですが、今回はそんなことを書いた記憶があります。
道枝
僕、三木さんからいただいたそのお手紙をテープで自分の台本に貼って、ずっとお守り代わりにみたいにしていたんですよ。合間にそれを見返したりしてましたね。
福本
私も一緒です。台本に挟んでました。今、この場にも持ってきてますよ(笑)。
三木
見せないでいいよ(笑)。でもおふたりとも役作りでいろいろやってくれたよね。
福本
真織は記憶を蓄積できないから、その日あったことを日記に書いていて、毎朝、今までの分を全部見返しながら生活を送っているじゃないですか。実際に自分で体験してみないと分からないことってあるなって思ったので、撮影中はずっと日記を付けてそれを読み返してました。2冊付けていて、ひとつは真織目線でお芝居の中で感じたことを書いていて、もうひとつは自分目線でその日あったことを書いていて。真織の日記はきちんと情報を残すための日記なので、本当に正確に描かないといけなくて、読み返す量も日々増えていくので、気持ちが相当強くないと続けられないだろうなって感じました。あと役作りとしては、記憶障害の方のドキュメンタリーを観て、ちょっとした目線を取り入れたりしましたね。
三木
そうそう、目線の話はしたよね。演出部のほうで集めてもらった資料の中にドキュメンタリーがあったんですが、実際の記憶障害の方が人と向かい合ってるときに、しゃべってる相手の方のことをすごくじっと見ている感じがしたんです。記憶というバックボーンがあれば目線を離していても内容が頭に入ってくるけれど、そうじゃないから相手が何を持ってそれを言っているのか理解して、間違えないようにしないといけない。その意識が目線に現れるんじゃないかっていう話をしました。
道枝
透に関しては、最初は声のトーンを低くして、真織と出会ってから徐々に明るくなっていくというのを意識しました。あと、内気と言ってもそんなに閉じてるわけではなくて、人とは普通に話せるけれど、自分からは行き過ぎない感じ。決して影がある感じではないっていうのは監督ともお話ししましたね。
三木
役作りで家事もやってたんでしょ?
道枝
普段は家事を全然やらないんですけど、アイロンがけやフライ返しもやってましたね。撮影期間中もやっていて、ずっと練習してましたね。ただ、今はやってないです。映画の撮影が終わって……どころか、そのシーンの撮影が終わった途端にやめちゃいました(笑)。
三木
せっかく料理が上手くなったのに(笑)。道枝くんがテストで作ったものをスタッフみんなで食べたけど、すごく美味しかったよ。
道枝
食べてくださったんですよね。美味しいって言っていただけて、良かったです(笑)。振り返ると、現場は楽しかったですね。三木さんとは初めてだったんですが、すごくフォローしてくださって。僕、『思い、思われ、ふり、ふられ』(20年)を映画館で観ていたんです。
三木
ありがとうございます!
道枝
福本さんが出てることは知ってたんですけど、三木さんが監督だっていうことは知らなかったんです。それで今回三木さんとご一緒させていただくことになって、どんな作品を撮られている方なのかなと思ったら、『思い、思われ、ふり、ふられ』があって「観た観た!」って。すごい方なんだなってあらためて思いました。
福本
私も中学生のときに『アオハライド』(14年)を映画館に観に行っていて、学校でもすごく流行っていたので、『思い、思われ、ふり、ふられ』に出演が決まったときは「次が私なの!?」っていうプレッシャーしかなくて。すごく優しく演出していただいたのですが、その時は自分の中でもうちょっとこう出来たら良かったなって思える部分があったから、今回は成長した姿を見せないといけないなと思って、より緊張がありました。
道枝
福本さんとドラマ(オシドラサタデー「消えた初恋」21年)で共演させていただいて、そのときはもうこの作品が決まっていたので、福本さんに「三木さんってどういう方なんですか?」って聞いたんですよ。そうしたら、「すごく優しい方だよ」教えてくださって。
福本
『思い、思われ、ふり、ふられ』のときと変わらず優しかったです。
三木
あれっ!? 前より厳しくしたつもりだったんだけどな?(笑)
福本
そうなんですか?(笑)
道枝
そう感じなかったってことは、福本さんもその分、成長されたってことですよね。
三木
撮影中はその都度、ちょこちょこニュアンスの微調整はありましたけど、基本的にはおふたりから出て来るものが素晴らしかったですからね。しかも今回、デートシーンなんかは自撮りカメラで自由に動いてもらっていたので、「はい、やって」ってお任せして(笑)。ボートのところなんて、ほとんどほったらかしで遠くから見守るっていう。
道枝
ありましたね(笑)。すごく自由にやらせていただきました。特にデートシーンのところはセリフも決まってなくてアドリブだったので、その分難しさもありましたけど、だんだん慣れて来てリラックスして出来ましたね。印象に残ったシーンは多いですけど、僕が完成した作品を観て真織のシーンで感動したのは、想いを放出させて泣き出すところ。あそこはいろんなものが伝わって、グッと来ました。
三木
撮影のとき、莉子ちゃんめちゃめちゃ緊張してたよね。
福本
感情のコントロールがすごく大変でした。私が透くんのシーンで印象的だったのは、花火大会ですね。本当に透くんの人柄が伝わってきたというか、真織を受け止める視線や言葉が優しくて、ずっとこの人の側にいたいっていう存在感を醸していて。もともと原作を読んでいるときから道枝さんはまさに透くんのイメージだなって感じていて、現場に入ってからもぴったりだなって思ったんですけど、そのシーンは特に重なって優しさが沁みました。
道枝
ありがとうございます。透もそうだと思ったので、演じてるときはただただ隣にいて、ひたすら真織に寄り添おうという気持ちでしたね。
三木
花火大会のところは細かく演出してないんですけど、真織がそれまで我慢してきたことが堰を切ったように溢れてしまうシーンだったので、そこは大事にすくい取って、透が優しく受け止めるっていうふたりの関係性を美しく撮れたらいいなと思ってました。ただ、あのシーンは寒くて大変だったよね(注・撮影は2月)。今回の撮影一、寒かったもんね(笑)。
福本
しかも浴衣でしたからね(笑)。
道枝
寒くて、手が死んでました(笑)。
三木
でもその中でいい表情をキープして、おふたりが頑張ってくれたので、すごく素敵なシーンになりました。ところでふたりとも褒めてくれてばっかりだけど、監督ダメ出しも何かあるんじゃないの!?(笑) この際だから、何か言っておきたいことはないですか?
福本
全然ないんですけど……カットが掛かったあと、モニターベースから私たちのいるところまですごい速足で来るっていう(笑)。
三木
やっぱりそれ、気になる!?(笑)
道枝
はい、それは気になりますね(笑)。
福本
転ばないか、心配になるんです(笑)。それと3回に1回くらい、何か言いかけると思いきや、何も言わずにそのまま戻っていって。こっちまで来て、「あっ、いいや」って自己解決して戻っちゃうじゃないですか(笑)。
道枝
帰っちゃった!?みたいな(笑)。すごくモヤモヤして、何だったんだろうって。あれは何もないってことでいいんですか?
三木
カット掛かった瞬間、とりあえず動き出すんだけれど、これはあえて言わないでやってもらったほうができるかなって思い直して帰っていくんです(笑)。
福本
そういうことだったんですね!(笑)
三木
だから全然大丈夫です。信用してください(笑)。
道枝
信用はしてるんですけど、なんやろうと思って(笑)。
三木
以後、気を付けます(笑)。今回こうして道枝くんと莉子ちゃんとご一緒して、今度また何かできるならそのときもぜひラブストーリーをやりたいですけど、関西弁はどうですか? ふたりとも大阪出身で、僕も徳島出身でどちらかと言うと関西寄りなので、関西弁のラブストーリー。ふたりが幼なじみの設定で、めっちゃしゃべる役とか。今回、インする前に、雰囲気作りで関西弁は合間も使わないようにしようって言っちゃったんですよね。
道枝
……でも普通にしゃべってました(笑)。
三木
守ってなかったんか~い!(笑)
福本
三木さんもうひとつ、敬語もやめようねって言われてたじゃないですか。でも、道枝さんがずっと敬語だったんです。撮影が終わる2日前くらいに、「そう言えば、ずっと敬語だよね?」って言ったら、「じゃあタメ口にします」ってそこで変えて。もう終わるのに、逆にこのタイミングで!?って思いました(笑)。
道枝
そんなこともあったなぁ。僕も自分で思いました、遅いわって(笑)。なかなか慣れなかったんですよ。でも関西弁のラブストーリー、いいですね。ボケたり、ツッコんだりですか?(笑)
三木
そうそう(笑)。関西弁キャラでふたりとやってみたいですね。そうしたらまた全然違う作品になりそうだなと思って。より素に近いキャラクターで、楽しいラブストーリーをぜひ。今回は重くて切ない設定でしたからね。
道枝
僕はもう、呼んでいただければなんでもやります!
福本
私もです!
三木
本当に呼ぶからね!(笑)
道枝・福本
はい、ぜひよろしくお願いします!